へどろから見た持続可能な世界-3
これまで阿蘇海のへどろの有用性、利用法について再々説明してきました。今回は「阿蘇海のへどろ」と環境改善について少しお話し、なぜ私たちがへどろの利用に挑戦しているのかを理解して頂きたいと思います。
皆さんは溝掃除をされたとき、黒い土が回収されるのをご存じだと思います。なぜ側溝の土は黒いのでしょう?
これは上流から土砂と一緒に流れてきた葉っぱなどの有機物が、土壌微生物によって分解されるとき、土壌微生物は食物繊維(セルロース)を分解できないため、食物繊維の多い葉柄や葉脈が黒く変色して「腐植」となり、土砂中に残るからです。
阿蘇海でも上流から常に土砂と一緒にもろもろの有機物が流れ込み、海底に沈んだあと土壌微生物によって分解されます。そのとき酸素が消費されるので海底は無酸素状態(嫌気性)となり、有機物の組織破壊も進むため、どろどろした状態になります。これがへどろの成因です。
阿蘇海のへどろ |
有機物が土壌微生物によって分解されるとき、チッソやリンなどの栄養物質が水中に溶け出し、それらは植物プランクトンを大量に発生させます。本来ならそれを魚が食べて大きく成長するのですが、阿蘇海は4メートル以深は貧酸素ないし無酸素状態で魚がいないため、植物プランクトンは単に水を汚すだけのものになっています。周囲に砂浜があればそれが植物プランクトンを吸着して水を浄化してくれるのですが、阿蘇海はほとんどが護岸で囲まれていて、そうした自浄作用も働かないのです。
ところで海や湖沼に堆積するへどろ中の栄養物質については、下図のようにへどろの表層に濃縮していることが知られています(⁂1)。だから浄化対策としてへどろを浚渫(除去)する場合は、一般にへどろの表層を10~20cm除去するだけです。
へどろ中栄養物質の濃度変化 |
へどろの浚渫とリンの溶出抑制効果 |
これが意味することは、海や湖沼には常に上流から土砂と有機物が流れ込み、一方、夏に発生した水中の植物プランクトンは冬には枯死沈降するため、へどろの表層には常に新鮮な有機物が堆積し、それが微生物によって分解されるため、へどろ層をどれだけ深く浚渫しても結局は元の木阿弥になってしまうということです。
つまり阿蘇海のへどろを除去する場合、決して大量に除去する必要はないのです。そのごく表層の新鮮な有機物を常に取り去ってやるだけで、栄養物質の溶出はかなり抑えられ、阿蘇海の環境は自ずと改善することが期待できるのです。
これが私たちがへどろの利用に挑戦する大きな理由です。
ぜひ私たちの活動を一度見に来てください。
そして次世代のために持続可能な世界について、一緒に考えましょう。
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⁂1 琵琶湖河川浄化事業パンフレット(1997)
⁂2 桜井善雄;水辺の環境学④、新日本出版社(2002)