2013年12月24日火曜日

「無」から「有」を

 今年の漢字に「輪」が選ばれました。私としては今年の夏はとにかく暑く、41℃を記録したところもあったことから「暑」か、あるいは何千人、何万人もの住民に、避難勧告や指示が再々発せられた異常気象から「災」か、はたまた超一流ホテル・百貨店の多くが関わっていた食材偽装事件から「偽」かと、悪いイメージの漢字ばかりを思い浮かべ、しかしどれもすでに選ばれたものばかりなので、一体今年はどんな漢字になるのか少々気になっていました。そしたら2020年東京五輪の開催決定や、富士山の世界文化遺産登録などで、「日本中が輪になって歓喜にわいた」ことから「輪」が選ばれたとか。私自身は別に「輪になって歓喜した」覚えがないので、「そうかナー」と思う反面、庶民にとって景気に明るさが感じられず、一方で消費税などの追い撃ちをかけられ、しかも中国・韓国との関係も一向に改善されないなか、手をつないで輪を作り、一緒に仲良く安心したい気持ちの表れのようにも感じられました。日本人は「輪」とか「和」など、人間的つながり・結びつき(一体感)を大切にする気持ちが強いからです。
 「和」といえばプロ野球などでチームが優勝したとき、よく監督が「和の力で勝った」と云います。外国の監督がどう云うかは知りませんが、あまり「和の力」とは云わないように思います。サッカーの日本代表があるとき報道陣をシャットアウトして合宿したことがあります。合宿を終えて記者団の前に現れた選手にある記者が、「皆さんホテルでは仲は良かったですか?」とトンチンカンな質問をし、聞かれた選手が戸惑いを見せていたことがあります。記者にすれば「仲の良い」のが「和の力」と勘違いしていたのかも知れません。しかしサッカーも野球も、プロともなればチームはスゴイ技術を持った選手の集まりであり、気を抜いたら落とされる環境のなかで、お互いにしのぎを削っているわけですから、「仲が良い」とか「和」とは異質の、強い個性がぶつかり合う厳しい世界にいるハズです。そこで通用するのは「勝つこと」、つまり「成功体験」だけであり、勝つ喜びが各自に自信とヤル気を与え、次に勝つ喜びが協力し合う関係を作り、次にまた勝つ喜びがチームに一体感をもたらすというように、勝つことが「信頼関係のできた強いキズナ」を生むといえます。スポーツ以外でも同じで、何か成果を得ようとする場合、いろいろ実践し失敗をしても、成功体験(ちょっとした発見・改良・利益など)があると何が正しいか、何をやるべきかが見え、次に進む意欲が湧き、そうしたことの積み重ねが、一歩一歩成果に導いて行ってくれるのだと思います。
 ところでいまの日本は「失われた20年」を引きずったままで元気がなく、この間、経済学者や政治家はデフレ脱却へのシナリオをズッと議論してきました。しかしこれという打開策を見い出せず、期待のかかるアベノミクスにしても、下手をすると泥沼から抜けられない可能性があります。もはや従来の経済成長モデルは通用しないのかも知れません。というのもこれまでの経済戦略はすべて、「資源の消費」を前提にしています。しかし中国やインドなどの人口大国が台頭するなか、果たして「地球は持つか」が心配されるからです。いま地球人口は70億人に達し、各自がアメリカ人並みの生活をすると「地球5個分の資源が必要」と云われ、いまのままでは地球がパンクするのは目に見えているからです。これからは「資源消費」の成長モデルを脱し、「省資源」・「少資源」の成長モデルを模索せざるを得ませんが、これはトップダウンでできることではなく、むしろ庶民の日常生活に潜む数多くの成功体験をシーズに、ボトムアップすべきものと云えます。「省資源」・「少資源」を旗印に、「もったいない」精神を持つ日本人のチエ・アイデアをすくい上げ、新たな成長イノベーションに育てることこそが、これからの政府の仕事ではないかと考えます。
 手前味噌になりますが、私たちがいま取り組む「エコの環」は、これまで廃棄物であった「へどろ」と「生ごみ」に資源としての価値を見出し、また、年金生活を送る高齢者に軽労働の社会貢献をお願いするもので、食育、予防医学などへの展開も考えています。つまりこれまで「無」であったものから「有」を生み出そうとする試みで、これからの「省資源」・「少資源」対策の一つのヒントになると信じています。それでは良い年をお迎えください。

2013年12月12日木曜日

けん制機能

 前回、食材偽装について触れましたが、阪急・阪神ホテルズの社長さん始め、多くのホテル・百貨店の釈明会見を聞いて私がまず感じたのは、組織としての「けん制」・「監視」機能は一体どうなっているのかということでした。一般に組織と云うのは異質の集団から構成され、本来そうした集団同士には自ずと「けん制」機能が働くものです。例えば会社にはいろんな部や課があります。いずれも会社の利益を目指し、一致団結して頑張るわけですが、それぞれの利害は必ずしも一致せず、ときにぶつかり摩擦が発生します。そしてお互いを「けん制」、「監視」しあう関係が生まれ、結果的にそれがいい緊張感を生み、会社という組織の健全化、自浄作用につながっているのです。むかし高度成長期のころ、トリオ・ロス・パンチョスというラテン音楽のヴォーカルグループがいて、その甘いハーモニーが日本人の心をとらえ、何度も日本で公演を行ったことがあります。しかしその甘い歌声とは裏腹に、彼らは音楽のことではなかなか妥協せず、楽屋では常にケンカをしていたと聞いたことがあります。そうしたぶつかり合いが彼らの甘いハーモニーを醸し出していた訳です。いまは企業も社会的責任が問われるようになり、単に社内のこうした「けん制」・「監視」機能だけでなく、コンプライアンス(法令順守)といって、法令のみならず社会的規範・企業倫理まで社内統制に取り込む企業が増えているなか、「内部告発」もなく、社長も「偽装ではなく部署間の連絡ミス」といって済まそうとする態度には、食べ物を扱う、それも超一流企業の社会的責任が微塵も感じられず、自浄作用は一体働いているのか疑ってしまったからです。上部の締め付けがきつく組織自体が委縮してしまっているのか、あるいは業績が芳しくなく疲労困憊し、お互いに傷口をなめあう関係に陥ってしまっているのかも知れません。
トリオ・ロス・パンチョス
ところで特定秘密保護法案が衆議院、参議院ともに、与党の力ずくの採決により通過しました。この法案については情報公開と日頃戦っている弁護士会、マスコミ関係者にとどまらず、各界からの反対が極めて強く、野中広務、古賀誠といった自民党の長老たちまでが、「なぜそんなに急ぐのか」と政府の対応を批判しています。いまは「テロ」という問題に常にさらされ、アルジェリア人質事件で苦杯をなめた政府にすれば、諜報機関をもつ外国からの情報を得るためには、なりふり構っておられないのかも知れません。世論の異常な反発を気にしてか安倍首相も、ゴリ押し採決の翌週の会見で、「いまある秘密の範囲は広がらない」、「知る権利は奪われない」、「もっと丁寧に説明すべきだった」などと釈明していますが、しかし国家のような組織になると、同じ組織とはいっても権力をもっているだけに、自浄作用が働かないと暴走しやすく、首相の力をもってしても歯止めが利かなくなるから怖いわけです。東日本大震災の復興予算が、まったく関係のない沖縄で使われるようなことが、まかり通ってしまうからです。独立性を担保した、しっかりした「けん制」・「監視」体制を作っておく必要があると思います。
 
 

2013年12月1日日曜日

食材偽装

  阪急阪神ホテルズのレストランのメニューの食材偽装が発覚してから、次から次へと同様の偽装が謝罪会見で明らかにされています。まるで「赤信号、みんなで渡れば怖くない」といった趣きです。2002年の雪印食品による偽装牛肉事件以降も食品の偽装問題はなかなか改まらず、国は消費者庁を設立して監視体制を強化したにも拘らず、この有様です。今回の食材偽装事件で私が驚いたのは、多くの高級ホテルで牛脂を注入した加工肉が、「ビーフステーキ」として使われていたということです。新聞によると豪州産、ニュージーランド産などの赤身の肉に、剣山のような機械を刺して牛脂を注入すると、わずか1~2分で和牛風の「霜降り肉」に加工できるのだそうです。牛脂には風味をよくするアミノ酸なども添加されており、実際に焼いて食べくらべると、加工前の肉はかたくてかみ切れず、食感もパサパサでうま味がほとんどないのに対し、牛脂注入肉は一度でかみ切れるやわらかさで、なによりジューシーでうま味が口に広がるのだそうです。一流ホテルで食事をする客は雰囲気もさることながら、料理人の腕を味わいに来ているハズです。しかしおいしいと思った料理がこんな人工加工の素材によるものだったとしたら、お客はいい面の皮で、ホテルの料理人もそのプライドはどこに行ったのかと思います。
いまから5~6年前だったでしょうか、宮津で食品添加物の害について講演会がありました。私自身は出席できなかったのですが、出席した家内の話しによると、講演者は以前ある食品会社で添加物まみれの食品づくりに携わっていた方で、製造現場の裏側をよく知っているだけに自社の製品は絶対に食べなかったそうです。しかしあるときスーパーの買い物で子供に自社製品をねだられ、それを機に会社を辞め、食品添加物の害を訴える活動に身を転じられたということでした。彼は実演でオレンジジュース、グレープジュースなど、どんなジュースも添加物だけで作ってみせてくれたそうです。
  ところでわが家で「震える牛」(相場英雄:小学館文庫)という小説を見つけました。子供が帰省した時に置いていったものと思われます。狂牛病事件を扱ったミステリー小説で、読むと中に加工肉製造の裏側を暴く場面が出てきます。暴露する人物はある食品会社の元課長で、内部告発したことで会社を辞めさせられたという設定です。内部告発に至った理由が、あるスーパーで子供に自社製品の購入を迫られ、購入できなかったからという内容からすると、著者は宮津の講演者を取材してこの小説を書いたように推察されます。その小説にはゾッとするようなことがいろいろ書かれています。その内容を若干手直しして紹介します。
 「写真にあるのは老廃牛のクズ肉、内臓、つなぎのタマネギ類と代用肉、そして血液です。これらを混ぜ合わせ、各種の食品添加物をぶち込んで作ったのがこのハンバーグです。カッターの刃を替えれば、ソーセージも作れます。」
 「メニュー表示は100%ビーフとなっていますが、老廃牛の皮や内臓から抽出した『たんぱく加水分解物』でそれらしい味を演出し、そこに牛脂を添加して旨味を加えますから、一応100%らしい食べ物にはなっています。」
 「一つひとつの添加物は、動物実験を経て発がん性や毒性のチェックをクリアしています。ただ、これらを同時に混ぜ合わせた際の実証データはなく、国も監視していません。」
 「このステーキも成型肉です。様々なクズ肉を特殊な食品用接着剤で合わせたものです。そうでなければ、250グラムで550円という値段設定はできません。」
 「世界チェーンのファストフードも基本的な仕組みは一緒です。世界中から集めた老廃牛のクズ肉に、添加物と刺激の強い調味料を混ぜ込めば、肉本来の味なんて分かりっこありません。」
 そういえばある世界的ハンバーガーの会社の社長さんが、自分の家族には自社製品を食べさせなかったという話しを聞いたことがあります。ノーベル賞でも触れましたが、いまの食品の多くは完全に「工業製品」化しています。それは消費者が安さ、手軽さを追い求め過ぎた結果であり、消費者の責任でもありますが、激しい価格競争の結果、それが高級と称されるホテルや百貨店にも浸透していたというのが、今回の事件の真相でしょう。改めて食事を原点から見直すときがきているように感じます。