2016年5月20日金曜日

グルテン不耐症

 イタリアのローマで開催されていたテニス「イタリア国際」準決勝で、錦織圭選手(6位)がジョコビッチ選手(1位)に6-2、4-6、6-7のフルセットの末、きん差で敗れました(5/14)。その1カ月ほど前にあったアメリカの「マイアミ大会」では、決勝でやはりジョコビッチ選手に当り、あっさり負けていただけに本当に残念でした。ジョコビッチといえば昨年の年間獲得ポイント数;16,585、獲得賞金;22百万ドルで、2位のマレー選手(獲得ポイント数;8,670、獲得賞金;8百万ドル)をダントツで引き離す選手であるだけに、本当に残念でした。ちなみに錦織選手は獲得ポイント数;4,235、獲得賞金;3百万ドルで8位でした。
 いまテニス界で圧倒的な強さを誇るジョコビッチ選手ですが、民族紛争の続く旧ユーゴスラビアから彗星のごとく現れた2006年のころは、試合中に不明の呼吸困難や腹痛に突然襲われ、試合放棄することが再々あったそうです。それでも何とかトップ10入りをし、2008年には全豪オープンで初のグランドスラム優勝を果たしたものの、翌年の同大会ではまたも棄権に追い込まれ、周りから散々たたかれたようです。翌々年(2010年1月)の同大会は周到に事前準備をし、順調に準々決勝まで勝ち進んだものの、またも試合中に呼吸困難になり敗退してしまったそうです。しかし非常に幸運だったのは、たまたまその試合を遠く離れたキプロスで、テレビで見かけた栄養学者(同じセルビア人)がいて、大方が「また例の喘息発作が起きた」と考えたのに対し、「これは食べ物が原因だ」と見抜いたというのです。
 二人はその後クロアチアであった大会時(7月)に会い、そのときその栄養学博士から簡単なテストを受けたそうです。博士はジョコビッチに左手を腹に当て右腕を横に真直ぐ伸ばさせ、その右腕を下に押したときの彼の腕の抵抗力をまず調べたそうです。次に一切れのパンを左手に持ってそれを同じように腹に当てさせ、真直ぐ伸ばした右腕を再度下に押したそうです。すると不思議なことに今度は力が抜け、博士の押す力に全く抵抗することができなかったといいます。以前ブログで紹介した京都市のある医師が行うO-リングテストに似ています。そして博士から「グルテン不耐症」であると診断されたそうです。
 グルテンとは小麦、ライ麦、大麦に含まれるたんぱく質で、これがパンの柔らかさを出す働きをするのですが、人によってはこのグルテンをうまく消化できず、結果として肉体が苛烈な反応を示すのだそうです。症状的には穏やかなものから深刻なものまで幅は広く、グルテン不耐症の人は5人に1人くらいいるそうです。しかし実際は気付かないだけでほとんどの人が、身体が重かったり、疲れたり、気弱になったりのグルテン反応を起こしているといわれ、「小麦は食べるな!」(日本文芸社)という本まで出版されているほどです。長年人類が食してきた小麦なのに一体なぜ?という疑問が沸きますが、実はそこには大きな問題があったのです。それは現在、とくにアメリカ、カナダで栽培されている小麦のほぼ100%は、1960年代の小麦とは似ても似つかぬ別物で、病気や日照りに強く、生産性を高めるために開発された遺伝子組み換えのもので、そのグルテンは自然界に存在するものとは構造的に異なり、小麦の含有たんぱく量はヒトの耐性限度を超えているのだそうです。改めて人間の開発したもの、あるいは技術力の脆弱さを知り、それを過信する恐ろしさを知る次第です。
 博士から「2週間でよいからパンを絶ちなさい」と言われたジョコビッチ選手ですが、最初はつらかったそうです。しかし日が進むにつれ体が軽くなり、活力が湧き、長年悩まされていた夜間の鼻詰まりが消え、1週目が終わるころにはパンが欲しくなくなったそうです。そして翌週に入ると毎日、最高の目覚めを迎えることができるようになったといいます。2週間経ったとき博士は、「これが本当のテストだ」といってベーグルを食べるように言ったそうです。すると再びグルテンを体内に取り込んだジョコビッチ選手は、まるで1晩中ウィスキーを飲んで二日酔いになったような状態になり、ベッドをはい出るのがやっとで、めまいを覚え、鼻詰まりも再発していたそうです。それを知った博士から、「グルテン不耐症の何よりの証拠だ」と告げられたといいます。
 それ以来ジョコビッチ選手は、食べ物に対する自分の身体の叫びを細心の注意を払って聞くようになり、絶対的強者である今日の身体を築き上げたといいます。

ジョコビッチの生まれ変わる食事;ノバク・ジョコビッチ、三五館、2015


2016年5月9日月曜日

加湿器事件

 韓国で加湿器の水に殺菌剤を混ぜて使用し、それが原因で妊産婦や新生児・その母親らが肺に損傷を受け、100人以上が死亡、1,500人以上の犠牲者が出ているとテレビが報道しています。韓国は湿度が低く加湿器が広く使用されているようですが、わが国でもエアコンを使うため加湿器はいまや決して珍しいものではなく、私たちも昨年亡くなった家内の母親のために加湿器を買い、枕元に置いてやっていただけに他人ごとには思えません。韓国の殺菌剤メーカーは「加湿器は掃除をしないと細菌が繁殖しやすく、細菌を吸う危険がある」といって殺菌剤を販売していたようですが、私たちも加湿器を買ったとき、「使用時はこれを水に混ぜるとよいです」と殺菌剤を勧められていたら、なんの疑問も抱かず殺菌剤を使っていたかもしれません。
殺菌剤メーカーの謝罪会見

 それにしてもいまの私たちの暮らしの中には、殺菌剤・抗菌剤といったものが溢れ、私たちも安易にそうした化学薬品に頼る生活をしているように感じます。「菌」というと一般的に悪いもの、汚いものといったイメージがあります。しかし私たちは莫大な数の菌と共生し、その力を借りて生きていることを知らねばなりません。最も多いのは腸内で100兆個以上もの細菌が存在し、他にも口腔内、皮膚表面などに棲息していて、皮膚には1兆個以上の菌が存在するといわれます。これら膨大な数の常在菌は善玉菌、悪玉菌、日和見菌などに分類されますが、それらが常にバランスよく存在することが、健康的に生きていく上でとても大切なのです。今回の韓国の例は異常ですが、いくら殺菌剤・抗菌剤の使用量が安全な許容範囲内であったとしても、それらを使うことは常在菌の棲息バランスを乱すことは間違いなく、安易にそうした化学薬品を用いることには注意が必要といえます。生ごみの発酵処理をしていると、抗菌剤・防腐剤などが多く入った食品は明らかに分解が遅く、微生物に大きな影響を及ぼしていることがよく分かります。

 こうした化学薬品に接すると、私たちの体内には「活性酸素」が発生することも知っておく必要があります。過剰な活性酸素は身体を体内からサビつかせ、ガン・生活習慣病・認知症などの誘因になるといわれるからです。私たちはよく布団を消毒を兼ねて太陽に当て乾燥させますが、これは布団の中の悪玉菌が太陽の紫外線を浴びると、体内に活性酸素が発生し自滅するからです。活性酸素の威力はこれほどに大きいのです。安易に殺菌剤・抗菌剤に頼ることは自らを滅ぼすことにもつながりかねません。