2014年7月27日日曜日

フィトケミカル

 中学生のころ家庭科の授業で、「五大栄養素」について勉強しました。炭水化物と脂肪はエネルギー源に、タンパク質は身体を作る材料に、また、ビタミン、ミネラルは少量で身体の調子を整え、潤滑油のような働きをすると勉強したように覚えています。そして試験で「ほうれん草」の栄養素を問われ、当時ポパイの漫画が流行っていて、筋肉隆々のポパイが何か難題に直面すると必ずほうれん草を食べていたことから、「タンパク質」と解答したこと、ビタミンを最初に発見したのは日本人の鈴木梅太郎だったが、世界に知られるのが遅れ第一発見者になれなかったという話しに、悔しい思いをしたことなどが懐かしく思い出されます。「食物繊維」についても勉強し、女の先生が「サツマイモなどに多く含まれ腸の運動を活発にします。だからサツマイモを食べるとオナラがよく出ます」と、恥ずかしそうに教えてくれたのを覚えています。ただ当時は食物繊維に栄養素と云う認識はなく、単に大腸の運動を促して便秘を防ぐ物質という程度の捉え方でした。しかしその後この食物繊維に血中コレステロールや血糖値を正常に保ち、心筋梗塞、糖尿病、脂質異常症、動脈硬化など、生活習慣病の予防に効果のあることが認められるようになり、いまでは「第6の栄養素」と呼ばれる様になっています。
 ところで最近、第7の栄養素として「フィトケミカル」という物質が注目されるようになってきました。いつまでも若々しく、美しく生きたいというアンチエイジングの研究と共に発見されるようになったのですが、フィトケミカルのフィト(phyto)はギリシャ語の「植物」で「植物由来の化学成分」を意味しますが、「植物性生理活性物質」とも呼ばれたりしています。食物繊維と同様に5大栄養素とは異なり、これを摂らないと特有の欠乏症を起こして最終的に死に至るといった、「生命の元」となるような栄養素ではありませんが、健康増進とか病気予防に極めて有効と云われ、カテキン、ポリフェノールなどがよく知られています。植物は動物と違って自分の好きなところへ移動することができず、過酷で変化の激しい環境でも生きていかねばなりません。だから動物とは違った自己防衛力を授かっていると云われます。つまり強い紫外線や風雨に耐え、細菌や害虫、あるいは動物から身を守るためには、「抗酸化力」、「抗菌力」の他に、色素や香り、アク、渋み、苦みなどで身を守る必要があるのです。そうした防御物質は1万種はあると云われ、今現在1,000種類ほどが確認されているそうです。中でもその抗酸化作用は老化や万病の元と云われる「活性酸素」を除去するのに有効で、アンチエイジングやガンなど生活習慣病の予防に大きな効果が期待されています。私たちは酸素を吸って生活しているので、放っておくと鉄が錆びるように酸化して朽ち果てる運命にあります。ミトコンドリアが活性酸素を発生し、他にも紫外線や食品添加物、タバコ、油分の多い食品などが活性酸素を発生させて身体を体内から虫食むからです。だから生命を維持するためには活性酸素を還元してやる必要があり、フィトケミカルがその重要な役割りを担っているのです。
 野菜の優れた点は、各種のビタミン、ミネラルの他に食物繊維、フィトケミカルを豊富に含んでいることで、それを十分に食べると体内の代謝を活性化し、タンパク質など他の栄養素の吸収も良くなり、免疫力が高まってガンなどの病気予防だけでなく、いつまでも若く、美しく生きる身体づくりができるのです。ただしそうした栄養素は皮の部分に多く含まれると云われ、だからよく洗って丸ごと食べるのが理想的です。私たちが生ごみ堆肥の露地栽培で、無化学肥料・無農薬・無畜糞堆肥にこだわった野菜づくりを進めているのも、健康な野菜を丸ごと食べてほしいからです。なお、和食は糖質のご飯を中心に、タンパク質中心の主菜、野菜中心の副菜、それに味噌汁と云う献立で、5大栄養素の他に食物繊維やフィトケミカルがバランスよく摂れるようにできています。和食が世界で注目されるようになった理由が理解できます。

中村丁次;けんこう325、NPO全日本健康自然食品協会

2014年7月14日月曜日

ミトコンドリア(つづき)

 生物の進化の過程で最初にできた多細胞生物は、ヒドラやイソギンチャクなど「腸」だけからなる腔腸動物だったそうです。その腸の周りにはニューロンと呼ばれる神経系の組織が作られ、腸が「脳」の役割りも果たしていたと云います。その後動物はこの腔腸動物から「昆虫」と「哺乳類」の2系統に分かれて進化し、「心臓」や「脳」は後から進化してできた器官なのだそうです。だから人間が生まれるときも最初に作られるのは腸で、順次その周りに他の組織が形成されると云います。死ぬときも「脳死」では死なず、腸の死をもって脳の働きも完全停止します。人間の腸には大脳に匹敵するほどの数の神経細胞が張り巡らされ、例えば食中毒菌などの入った食べ物も、脳では判断できなくても腸が安全かどうかを判断し、おう吐や下痢などを引き起こして危険な物質を排泄し、身を守ってくれます。腸は一般に消化だけが目的の器官と考えられがちですが、実は私たちが生きるのに必要なビタミン類を合成したり、ガンを始め外敵から身を守る免疫システムを作ったり、脳に歓喜や快楽を伝えるセロトニン、気持ちを奮い立たせヤル気起こすドーパミンなども合成すると云います。つまり腸はもっとも賢い重要な臓器と考えられ、最近テレビ・新聞でやたらと腸に対する薬や食品の宣伝が目につきますが、その役割りを考えれば当然のことかも知れません。
 ところで腸には500種類以上の細菌が100兆個以上も生息し、前述の腸の役割りに大きく加担していると云います。その重さは大腸内のものだけでも2kgほどあるそうです。それらはふつう善玉菌と悪玉菌に区分けし、善玉菌の多い方が良いように云いますが、実は両者のバランスが重要なのだそうです。赤ちゃんが生まれてくるとき腸内は無菌状態にあり、何でも舐めたがるのは一度腸内を悪玉菌の大腸菌だらけにして免疫力をつけるためなのだそうです。だから「ばっちい、ばっちい」と消毒したお皿で無菌の食べ物ばかりを与えるのはよくなく、アトピー性皮膚炎で悩んでいる赤ちゃんの実に40%には、便のなかに大腸菌が全く見つからなかったと云います。子どもを強くたくましく育てようとしたら、良いことだけの無菌状態で育てるのでなく、世の中には悪い人、悪いことがいっぱいあることもきちんと教えることが大切なように、腸内にも善玉菌・悪玉菌がバランスよくたくさんあることが重要なわけです。ただ、私たちは極度に心理的、肉体的なストレスにさらされると腸内に活性酸素が発生し、善玉と云われる菌が減り悪玉と云われる菌が増えて両者のバランスが崩れ、それが原因で免疫力が低下したり、幸せや活力を感じさせるセロトニンやドーパミンが合成されなくなって体調不良になることから、悪玉と云われる菌を悪く云うわけです。この自然界では何事も拮抗することが重要で、善玉だけでも悪玉だけでもよくなく、両者が競り合う環境が大切なのです。
私たちが必要とするエネルギーは通常、「解糖系」と「ミトコンドリア系」の二つのエンジンによって作られます。しかし腸の細胞はエネルギーの原料として「糖」を利用せず、小腸は「グルタミン酸」を、大腸は「脂肪酸」を原料にミトコンドリアエンジンを使ってエネルギーを作ると云います。大腸にいる膨大な数の腸内細菌が食物繊維を発酵して脂肪酸を作るからで、身体にとって野菜を始め食物繊維の多い食品が必要とされるのはこうした理由によるそうです。しかしミトコンドリアエンジンにはエネルギー代謝時に、「フリーラジカル」という活性酸素を発生する弱点があることは前回述べたとおりです。この活性酸素は良い働きもするのですが、細胞内のあらゆる物質と見境なく反応してしまう欠点があり、それが原因で腸は消化機能や免疫機能の低下を引き起こします。こうした活性酸素による腸の機能低下は、食品添加物や残留農薬の多い食品を食べたり、排気ガスやタバコの煙、電化製品からの電磁波、紫外線などによっても引き起こされると云います。しかしこれに有効なのが最近注目されるようになった、野菜や果物に含まれるフィトケミカルという抗酸化物質(ポリフェノールとかカテキンなど)です。これらにはこの活性酸素を消す力があるからで、腸が野菜や果物を必要とするのにはこうした理由もあるのです。「5 a Day」運動で野菜や果物を多く摂取することは、実は腸にとってとても大切なことであるのです。だから腸内細菌のバランスをよく保つには、腸内細菌のエサである食物繊維を多く含んだ野菜、豆類、海藻類、無精白穀類を食事の中心に据え、それに良質な細菌をいっぱい含んだ納豆、味噌、ヨーグルトなどの発酵食品を添えることがとても大切と云えます。そして化学調味料や添加物を多く含む加工食品などは極力避けることです。その上で極度なストレスのかかる生活習慣を改め、リラックスすることに心がけることが大切と云えます。
 最近、サプリメントによる栄養補給のコマーシャルが非常に目につきます。しかしある栄養素だけがそのまま素直に効くほど身体は単純ではなく、逆に身体にとっては「偏食」となり、高濃度の抽出成分による弊害さえ考えられます。拮抗作用がないからです。やはり栄養素は食事からよく噛んで摂るべきで、それにより食べ物の多くの成分が助け合ったり拮抗して、複合的に私たちの健康に寄与することをよく理解すべきだと思います。

藤田紘一郎;”脳はバカ、腸はかしこい”、三五館(2013)

 

2014年7月5日土曜日

ミトコンドリア

 「人間は食べ物をエネルギーにして生きている」と、食べ物と人間のエネルギー代謝の概念を最初に築いたのは、現代化学の基礎を築いたフランスのラボアジェだそうです(18世紀後半)。その少し前に「養生訓」を著した貝原益軒(18世紀初期)も、食べ物が働く力の源であることは分かっていたのでしょうが、ただエネルギーと云う概念を持っていたかどうかとなると、やはりラボアジェに軍配を上げざるを得ないかも知れません。その後ドイツを中心にエネルギーの源を探る研究が始まり、炭水化物、脂質、タンパク質の三大栄養素が発見されたと云います。
 ところでこの地球上にまだ酸素がなかったころ、生物進化の初期に出現したのは「原核生物」と呼ばれる嫌気性微生物で、そのとき微生物が使ったエネルギーは糖を原料に、酸素を使わない「解糖」という化学反応によるものでした。しかしシアノバクテリアの出現で大気中に酸素が増えてくると原核生物は生きづらくなり、酸素が好きな「α-プロテオ細菌」との共生を図り、約8億年という長い時間をかけてその細菌を自らの細胞内に取り込み、その進化の結果として生まれてきたのが、いま地球上に住む私たち脊椎動物を始め植物などの「真核生物」だと云われます。私たちの身体の細胞の中に「ミトコンドリア」という小器官がありますが、それが共生のために取り込んだ細菌の名残だと云われます(私も高校時代に大嫌いな生物で勉強し、名前だけは覚えていました)。
私たちの身体にはエネルギーを作り出すのに、「解糖系」と「ミトコンドリア系」の2つのエンジンがあることを糖質制限食で触れました。解糖系はブドウ糖1分子を原料に、酸素を使わずに「ATP」というエネルギー源を2分子作ります。このときピルビン酸という物質も2分子作製され、このピルビン酸がミトコンドリア内部に運ばれると、そこで酸素を使ってさらに36分子のATPが作られます。つまり私たちの細胞内では原核生物の名残である細胞質で解糖系のエネルギー代謝が起き、続いて酸素が好きな細菌の名残のミトコンドリアで代謝が起きるのですが、生産されるエネルギーの量は酸素を使うミトコンドリア系が圧倒的に多く、生産効率が非常に良いと云えます。しかしその生成速度は解糖系によるものが圧倒的に速く、白筋(速筋)と呼ばれる瞬発力を必要とする筋肉(100m走やジャンプなど無酸素運動向きのもの)や細胞分裂の盛んな皮膚の細胞では、主に解糖系によるエネルギーが使われ、それらの細胞にはミトコンドリアの数も少ないと云われます。一方、赤筋(遅筋)と呼ばれる持久力を必要とする筋肉(水泳やジョギングなど有酸素運動向きのもの)や臓器などの一般の細胞では、ミトコンドリアで作られるエネルギーが主に使用され、細胞内のミトコンドリアの数も数百から数千と非常に多く、そこではブドウ糖の他に脂肪酸が代謝に利用されます。ただしミトコンドリアエンジンには弱点があり、エネルギーを作り出すときに電子のリーク(漏電)が起き、「フリーラジカル」という活性酸素が発生すると云います。
 子供時代は成長(細胞分裂)と瞬発力が主体で生きているためよく食べ、主に解糖系で生きていますが、大人になるにつれ段々と二つの系は調和し、中高年以降になると瞬発力より持久力が求められるようになり、エネルギーの生成は解糖系からミトコンドリア系にシフトします。だから食べる量は少なくてもよくなり、食べすぎるとかえって余った糖が脂肪に変わり、メタボになると云われます。細胞の成因から解糖系は酸素が嫌い、低温が好き、盛んに分裂増殖するというご先祖細胞(原核細胞)の性質をもち、逆にミトコンドリア系は酸素が好き、高温が好き、分裂を抑え活性酸素を発生するという性質をもち、私たちはこの全く異質な二つの生命体のバランスの上に生きているのだそうです。だから身体を酷使したり、過剰にストレスをかけると交感神経の緊張から血管収縮が強まり、血流が悪くなって低体温と低酸素を招き、解糖系が盛んになって脳梗塞や心筋梗塞、また糖尿病などメタボ関連の疾患が起きやすくなります。しかもこうした状態はミトコンドリアには不利なため分裂抑制遺伝子が機能を停止し、分裂促進遺伝子(ガン遺伝子)が活性化しやすくなります。つまりガン細胞にとってはフリーラジカルによる攻撃の恐れがなく、低温・低酸素で糖の多い解糖エンジン優位の方が増殖しやすいのです。したがってガンを治すには、ガン細胞の中で仮死状態に陥っているミトコンドリアを元気にさせることが重要で、そのためには副交感神経を優位にするような、リラックスして血流を良くしたり、適度な運動や温泉・風呂に入って身体を温めたり、深呼吸をして低体温と低酸素から脱却して免疫力を高めることが大切なのだそうです。そうすればミトコンドリアの分裂抑制機能が復活し、進行ガンでも回復に向かうと云います。
 特にミトコンドリア系主体で生きるお年寄りにとっては、ミトコンドリアが一番多い赤筋と脳神経が衰えて使えなくなると、寝たきり老人、認知症老人になると云いますから、適度な有酸素運動で筋肉量の減少を抑えたり(基礎代謝の維持)、いろんなことに好奇心を持ち、脳を使い続けることが非常に大切であると云えます。その意味である程度肉を食べることも重要なのかも知れません。
藤田紘一郎;”脳はバカ、腸はかしこい”、三五館(2013)
安保徹;”けんこう326”、NPO全日本健康自然食品協会