2021年3月23日火曜日

へどろから見た持続可能な世界ー生ごみのたい肥化

 前回は食べ物の消化過程でカスとして残る食物繊維と、その腸に於ける重要な働きについて述べました。

 私たちはゼオライトという土を使って生ごみのたい肥作りを行っていますが、たい肥作りやその畑での働きには、身体の仕組みと非常に似通ったところがあり、驚かされます。

 たい肥作りではまず、土の入った処理箱に生ごみを投入します。同時に米ぬかとゼオライト粉末も加え、よく攪拌をして翌日まで放置します。するとゼオライトという非常に居心地の良い土の中に棲む土壌微生物が、生ごみをエサとしてパクパク食べ、それをエネルギーに細胞分裂を繰り返し、土壌微生物がいっぱいの土に変えてくれます。米ぬかを加えるのは、米ぬかは分解されやすく、しかも生ごみのすき間に入り込んで分解を速めるからです。

発酵分解物

 こうした作業を毎日繰り返し、1週間ほどたったところで処理箱の土をふるいにかけると、細かい生ごみの発酵分解物と粗い未分解物に分かれます。未分解物は土壌微生物が苦手とするセルロース(食物繊維)の多い部分です。細かい方はチッソやリン酸など作物の養分供給源となる部分で、「栄養腐植」と呼ばれます。粗い方は分解されにくい安定した部分で、「耐久腐植」と呼ばれます。私たちの身体の消化過程でも、胃や小腸で消化されたものは栄養源となり、消化されないものは食物繊維として大腸に残りますが、それとまったく同じことが起きるのです。

未分解物
 発酵分解物(栄養腐植)は作物の施肥用に、未分解物(耐久腐植)は元肥として使ってもらっていますが、特に未分解物は畑の中でエサとしてゆっくり分解されるので土壌微生物が繁殖しやすく、しかも食物繊維は団粒構造を作って土の保水力、保肥力、通気性を高め、土壌環境を良くしてくれます。

 こうした働きは大腸に於いて食物繊維が善玉菌のエサとなり、善玉細菌を増やしたり、腸内をきれいにして腸内環境を良くすることに似ています。

 また、耐久腐植には土壌のpH(ピーエッチ;酸性度)の激しい変化を緩和したり、銅やカドミニウムなどの重金属を吸着して、作物が吸収するのを抑える働きがあると言います。こうした働きは体内で食物繊維が血糖値の上昇を抑えたり、コレステロールやナトリウム、有害物質を吸着、排除して、生活習慣病や大腸がんを防いでくれるのとまったく同じです。

 大腸に棲む腸内細菌の数は1グラム当たり約100億個以上だそうです。一方、たい肥が十分に入った有機栽培の畑の土壌微生物の数は、1グラム当たり約100億個だそうです*。人間の大腸に棲む細菌数と畑の土壌微生物の数がほとんど同じというのも、面白いですね。

 一見、カスと思われる食物繊維ですが、健康な身体づくりにも、健全な土づくりにも大切なものなのですネ。

* https://natural-farming.jp/report/160215.html

2021年3月15日月曜日

へどろから見た持続可能な世界ー食物繊維


  現代人はビタミン・ミネラル・食物繊維が不足した、「現代型栄養失調」に陥っているといわれます。食事の洋風化や加工食品の増加が原因とされ、国は一日350グラム以上の野菜と、200グラム以上の果物を食べることを推奨しています。しかし男女とも未達の状態が続いています。


 私が栄養について学んだのは60数年も前の中学生の時でした。当時は5大栄養素といって炭水化物、タンパク質、脂肪、ビタミン、ミネラルが身体にとって必要な栄養素で、食物繊維は栄養素に入っていませんでした。身体が消化できなかった食べ物のカスで、腸の活動を活発にしてオナラの原因になるぐらいの認識で、若い女の先生が恥ずかしそうに教えてくれたことを覚えています。

 しかしその後、食物繊維には水に溶ける水溶性と解けない不溶性のものがあり、水溶性の食物繊維はゼリー状になり、食後の血糖値の上昇を抑えたり、コレステロールやナトリウムを吸着して体外に排出したりして、余計な栄養素の吸収を抑え、しかも膨らんで胃腸内をゆっくり移動するので腹持ちがよく、肥満予防にもなり、糖尿病、脂質異常症、高血圧、動脈硬化など、いわゆる生活習慣病の予防に非常に効果のあることが分かってきました。
 一方、水に不溶性の食物繊維は水を吸収して便のカサを増やし、大腸を刺激して排便をスムーズにし、有害物質を体外に排出して腸内をきれいにするので、大腸がんのリスクが減ることも分かってきました。
 しかも食物繊維は大腸内のビフィズス菌など善玉細菌のエサになるので、善玉細菌が増えて腸内環境がよくなります。

 それまでの栄養素と異なり食物繊維は身体に吸収されることはありませんが、以上の効果が認められ、いまでは「第6の栄養素」に数えられるまでになっています。

 生活習慣病の発症予防の観点からは、成人では一日24グラム以上の食物繊維を摂る必要があるそうです。しかし実際の摂取量は平均15.0グラムと慢性的に不足しており、政府は両者の中間的な値、成人男子一日20グラム以上、成人女子一日18グラム以上を当面の目標量に定めています。

 食物繊維は野菜、穀類、豆、キノコ、果物、海藻に多く含まれますが、効率よく摂るには一日350グラム以上の摂取量が推奨される野菜を食べるのがよいでしょう。ご飯などと一緒に350グラム以上の野菜を食べると、おおむね一日分の食物繊維が摂れるからです。煮たり茹でたりするとカサが減り、食べやすくなります。
 
                  350グラムの野菜