地産地消
太古の昔、私たち人間は木の実を食べて生活していました。木の実を採取するために必要なエネルギー(投下エネルギー)量を1とすると、採取した木の実のエネルギー(獲得エネルギー)量は約4、つまり一人が働くことで一家4人から5人を養うことができました。
その後人間は農業を始め、土を耕して作物を得るようになりました。そうすると耕作に投下したエネルギー量の12倍ものエネルギーが作物として獲得できるようになり、このゆとりが人間社会に分業化をもたらしました。
では機械化の進んだ現代はどうでしょうか? 機械化により作物の収量は飛躍的に増えました。しかし燃料、化学肥料、農薬などで使うエネルギー量も飛躍的に増え、お米の場合、獲得/投下のエネルギー比は1以下といわれます。つまり私たちがごはんを一杯(約230キロカロリー)食べることは、同時に石油も230キロカロリー強(約23グラム)食べることになるのです。ハウス栽培の野菜はエネルギー使用量が多いため、獲得エネルギー量は1/3以下とさらに低く、例えばピーマン1個(約70グラム)を食べる場合、約100キロカロリー(10グラム)の燃料を消費するそうです。楽で効率のよい生産が極めて非効率な結果を招いているのです。
現代農業は作物を工業製品のように均質、大量生産して、安く作ることを目指しています。しかしこうした生産方式は大量の化石燃料を消費し、土壌の荒廃(砂漠化)、水資源の枯渇化を招いています。
作物を育てる土というのは単なる無機物のカタマリではありません。そこに住む土壌微生物、ミミズ、小動物、植物、それらの死骸や排泄物など、有機物と無機物が織りなす複雑な生態系で、土は生きているのです。だから作物を育て収穫すれば生態系にはかなりのダメージが与えられます。しかし生きているから不足した有機物を与えたりしてやれば回復でき、農業生産はずっと続けていけるのです。しかし重い機械で圧したり、回復力を超えて農業生産を続けたりすると、土は死んでしまい砂漠化していくのです。
農業というのは水も大量に使用します。トウモロコシ1トン生産するには1,000トン、大豆は2,400トン、小麦は2,900トン、精米は6,000トンの水が必要といわれ、わが国に輸入される食料がもたらす水の量は年間744億トン、琵琶湖貯水量の2.7倍になるそうです。つまり農産物を輸出入することは土と水も大量に輸出入することになるのです。
いまアメリカは自国の農産物を買えと、中国にも大きな圧力をかけています。アメリカがこのような農業大国でありえるのは、中西部にあるオガララ帯水層のお陰だといわれます。この世界最大級の地下水槽がアメリカの乾燥地帯での大規模な穀物栽培を可能にしているからです。しかしこの帯水層の水量も琵琶湖貯水量の150杯分といわれ、そのうちに枯渇します。いま農産物も自由化が進み、日本は大量の食料を海外からの輸入に頼っています。しかしその裏には砂漠化、水資源の枯渇化という恐ろしい現実が潜んでいます。
オガララ帯水層 |
* 松尾嘉郎、奥薗壽子;地球環境を土からみると、農文協(1997)
* 池本廣希;地産地消の経済学、新泉社(2008)