世界陸上競技大会
いまから10年近く前、大阪で世界陸上競技大会がありました。陸上競技にあまり関心は無かったのですが、招待券を頂いたこともあり、家内と長居スタジアムまで出かけたことがあります。しかし思ったよりトラックまでの距離が遠く、走る選手が遠くに感じられ、フィールド競技の砲丸投げや棒高跳びになると、双眼鏡でもないと選手の顔もよく分からず、遠くの方で何かやっているといった感じで迫力が全くなく、いささかガッカリして帰ってきたことを覚えています。ただ、競技を終えた選手達が観戦のため間近の空席に座りに来るため、有名な選手をすぐ隣で見ることができたのはよかったですが。
ところで先日、何気なくテレビをつけると北京の世界陸上競技大会をやっていました。丁度砲丸投げをやっていましたが、あまりなじみのない競技も選手の真剣な顔がアップされ、投てき距離、順位などがすぐに分かると結構面白く、つい引き込まれて見ていましたが、そのうちに他の競技、とくにトラックの7~8名による真剣勝負が始まると、もうとにかく面白く、毎晩のようにテレビで観戦するようになりました。特に「陸上の華」といわれる100m、200m走には日本選手が男女4人も出場し、ワクワクした思いにさせられました。
それにしてもボルトを始めとする短距離選手のあの筋肉、スゴイですね。画面にアップされるその筋肉姿は男女ともすごい迫力、美しさで、身体を見ただけで日本選手の劣勢が分かる気がしました。しかし中距離、長距離になるとその筋肉がだんだんと削ぎ落とされ、日本人選手でもあまり見劣りしなくなります。それと短距離選手がほとんど黒人であるのに対し、中距離、長距離になると白色、黄色系が増えてくるのが面白く、筋肉の付き方に人種の違いがあるのかと不思議に感じます。
私たちの身体の筋肉には「赤筋」と「白筋」の二種類があるそうです。赤筋は血液が運ぶ酸素で脂肪を燃焼させる「有酸素運動」により働く筋肉で、血の赤い色をしています。収縮速度が遅く「遅筋」とも呼ばれます。一方、白筋は酸素がいらない「無酸素運動」で働く筋肉で、グリコーゲンという糖質をエネルギー源にしています。収縮速度が速く「速筋」とも呼ばれます。長距離、マラソンの選手は息をしながら長距離を走り続ける必要があり、赤筋が発達しています。一方、短距離選手は100m、200mをほとんど息をしないで走り、筋肉は超高速で伸び縮みする必要から白筋が発達しています。マグロは大海を長時間泳ぎ続けることから酸素を運ぶ血液が大量に必要で赤く、脂肪を燃焼させることから脂がよくのっています。一方、ヒラメは普段は海底でジッとしていて、エサが来たときだけパッと瞬間的に行動することから血液による酸素はいらず、だから身は白く、脂分も少なくて味が淡白です(見た目はマグロが短距離選手、ヒラメが長距離選手に見えますが)。砲丸投げ、ハンマー投げの選手も瞬発力が求められることから、白筋が発達しています。しかし彼らに短距離が走れるようにも見えないことから、同じ白筋といっても使う筋肉が違うのでしょう。そういえば昔、スピードスケートの橋本聖子選手が夏に筋肉を鍛えるため、自転車競技にチャレンジしたことがあります。しかし自転車とスケートでは使う筋肉が違うということで、あまり効果がなかったようです。日本の短距離選手も筋肉を鍛えるため、いろいろウエイトトレーニングをしているようですが、そうして鍛える筋肉と走る筋肉とはやはり違うのかもしれません。そうでなかったら短距離にもっと白色、黄色の選手が増えてもいいはずです。
ところで筋肉というのは鍛えれば何歳になっても増やすことができるそうです。逆に使わないとどんどん減少し、疲れやすく、怪我をしやすくなると云います。しかも加齢とともに筋力の低下はスピードアップするので、高齢者がちょっとしたことで安静にしたり寝込むと、かえって筋力低下から歩けなくなり、「寝たきり」になりかねないと云います。加齢に伴い大きく萎縮するのは白筋です。瞬発力を必要としないからで、老化対策としては白筋(速筋)を増やすことが重要と云います。白筋を増やすにはグッと瞬間的に力を使うダンベルの上げ下げや、腕立て伏せなどが有効で、短時間でよいので毎日継続して鍛えることが大切です。寝たきりにならないためには赤筋(遅筋)を鍛えることも重要で、こちらはウォーキングなどの有酸素運動が有効です。
南雲吉則;空腹が生き方を教えてくれる、サンマーク出版(2013)
周東 寛;100歳まで寝たきりにならないための健康法、中経出版(2013)