「無」から「有」を
今年の漢字に「輪」が選ばれました。私としては今年の夏はとにかく暑く、41℃を記録したところもあったことから「暑」か、あるいは何千人、何万人もの住民に、避難勧告や指示が再々発せられた異常気象から「災」か、はたまた超一流ホテル・百貨店の多くが関わっていた食材偽装事件から「偽」かと、悪いイメージの漢字ばかりを思い浮かべ、しかしどれもすでに選ばれたものばかりなので、一体今年はどんな漢字になるのか少々気になっていました。そしたら2020年東京五輪の開催決定や、富士山の世界文化遺産登録などで、「日本中が輪になって歓喜にわいた」ことから「輪」が選ばれたとか。私自身は別に「輪になって歓喜した」覚えがないので、「そうかナー」と思う反面、庶民にとって景気に明るさが感じられず、一方で消費税などの追い撃ちをかけられ、しかも中国・韓国との関係も一向に改善されないなか、手をつないで輪を作り、一緒に仲良く安心したい気持ちの表れのようにも感じられました。日本人は「輪」とか「和」など、人間的つながり・結びつき(一体感)を大切にする気持ちが強いからです。
「和」といえばプロ野球などでチームが優勝したとき、よく監督が「和の力で勝った」と云います。外国の監督がどう云うかは知りませんが、あまり「和の力」とは云わないように思います。サッカーの日本代表があるとき報道陣をシャットアウトして合宿したことがあります。合宿を終えて記者団の前に現れた選手にある記者が、「皆さんホテルでは仲は良かったですか?」とトンチンカンな質問をし、聞かれた選手が戸惑いを見せていたことがあります。記者にすれば「仲の良い」のが「和の力」と勘違いしていたのかも知れません。しかしサッカーも野球も、プロともなればチームはスゴイ技術を持った選手の集まりであり、気を抜いたら落とされる環境のなかで、お互いにしのぎを削っているわけですから、「仲が良い」とか「和」とは異質の、強い個性がぶつかり合う厳しい世界にいるハズです。そこで通用するのは「勝つこと」、つまり「成功体験」だけであり、勝つ喜びが各自に自信とヤル気を与え、次に勝つ喜びが協力し合う関係を作り、次にまた勝つ喜びがチームに一体感をもたらすというように、勝つことが「信頼関係のできた強いキズナ」を生むといえます。スポーツ以外でも同じで、何か成果を得ようとする場合、いろいろ実践し失敗をしても、成功体験(ちょっとした発見・改良・利益など)があると何が正しいか、何をやるべきかが見え、次に進む意欲が湧き、そうしたことの積み重ねが、一歩一歩成果に導いて行ってくれるのだと思います。
ところでいまの日本は「失われた20年」を引きずったままで元気がなく、この間、経済学者や政治家はデフレ脱却へのシナリオをズッと議論してきました。しかしこれという打開策を見い出せず、期待のかかるアベノミクスにしても、下手をすると泥沼から抜けられない可能性があります。もはや従来の経済成長モデルは通用しないのかも知れません。というのもこれまでの経済戦略はすべて、「資源の消費」を前提にしています。しかし中国やインドなどの人口大国が台頭するなか、果たして「地球は持つか」が心配されるからです。いま地球人口は70億人に達し、各自がアメリカ人並みの生活をすると「地球5個分の資源が必要」と云われ、いまのままでは地球がパンクするのは目に見えているからです。これからは「資源消費」の成長モデルを脱し、「省資源」・「少資源」の成長モデルを模索せざるを得ませんが、これはトップダウンでできることではなく、むしろ庶民の日常生活に潜む数多くの成功体験をシーズに、ボトムアップすべきものと云えます。「省資源」・「少資源」を旗印に、「もったいない」精神を持つ日本人のチエ・アイデアをすくい上げ、新たな成長イノベーションに育てることこそが、これからの政府の仕事ではないかと考えます。
手前味噌になりますが、私たちがいま取り組む「エコの環」は、これまで廃棄物であった「へどろ」と「生ごみ」に資源としての価値を見出し、また、年金生活を送る高齢者に軽労働の社会貢献をお願いするもので、食育、予防医学などへの展開も考えています。つまりこれまで「無」であったものから「有」を生み出そうとする試みで、これからの「省資源」・「少資源」対策の一つのヒントになると信じています。それでは良い年をお迎えください。
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